無題(お題:猫、教室、カーテン)

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「無理、絶対無理! そんな題材じゃ無理!」

「だからってカーテンレールで首吊ろうとしないで下さいよ先生!」

「食い込んでる食い込んでる、僕のか弱い喉にピンクの長い付け爪がっ」

「誰がか弱いですか」

「僕。だからさ、今回はパスの方向で」

「何がだからですか。これから代わりの作家探すの大変なんです。何とかして貰いますからね。って、聞いてます? 暢気にお茶なんか啜ってる場合じゃないですよ!」

「げぼっ。ご無体な。ショートショートだろ? 僕星新一みたいに頓知のきいた話かけないし。何でこんな企画の依頼受けたのよ。半年前の僕のバカ!」

「自分で自分の頭叩かないで下さい。五十がらみのジジイがみっともない」

「今この編集者、大御所作家をジジイつった、シルクでケツを拭くかの如くサラっとジジイつった!」

「脳味噌は中二ですけどね。それはともかく」

「悪態の上塗り!」

「猫、教室、カーテン。先生にはピッタリだと思いますけど。ねえ、ミケちゃーん」

「何がにゃおーん、だよ。迎合しやがって。——猫はいいけど、何よ教室とカーテンって。暗闇とかマタタビとか他に使いやすいネタあるでしょ」

「それだったら三題噺の意味がありませんよ」

「はあー。こんなことなら『サルでもできる三題噺教室』的なカルチャースクール通っとくべきだった」

「そんな事いっても始まらないです。とりあえず何か考えてください。ウチの『週間活字ガイド』は先生で持ってるんですから。お願いしますっ。この通り!」

「土下座までされたら仕方ない。こんなのはどうだろう? 主人公は兼業作家で学校の先生。学校の仕事が忙しくて原稿を落としそうなの」

「それ、いつもの先生ですよね。先生は専業作家ですけど。仕事やってないときは何やってんですか?」

「うるさい。ずっと仕事やっててアレなの。で、担当編集者が毎日連絡寄越してくるんだよ、『まだですか?』って」

「あてつけですか」

「ひ、被害妄想だよ。主人公は焦燥の中で日々をすごすが、とうとう運命の日が来てしまう!」

「来てしまう、って、そりゃ遅筆な作家が悪いんです」

「いちいち茶々を入れるなよ。放課後の校内を見回り中、教室のカーテンが不自然に動いているのを見る。何だ? と覗いて見ると、猫が佇んでるんだ」

「面白くなってきましたね」

「その猫がいう。『先生、原稿を受け取りに伺いました』——ぎゃああああ!」

「その話で震え上がるのは先生だけですよ」

「ちぇ。単品じゃ広がらないから、繋げるてみるか。カーテンに縫い付けられた猫とか」

「いいじゃないですか、ドラマが広がりそうで」

「嫌だよ。カーテンに縫い付けるなんて猫が可哀想でしょ! ミケ、この女に近寄っちゃダメ」

「自分でいったんでしょ。だったら、何かまともな話考えて下さいよ」

「作家と編集者が猫と教室とカーテンのネタをこねくり回す話とか?」

「よし」

「え、何、急にマジな顔しちゃって」

「それでいきましょう!」